大前提 HSPは病気ではない
HSPと病気・障害・特質との関係を解説する前に、まずは知っておいてほしいことがあります。
それは「HSPは病気ではない」ということ。
HSPは"Highly Sensitive Person(とても敏感な人)"という名前が示すとおり、その人の持つ気質です。
「そそっかしい」「楽天的」「怒りっぽい」といった、いわゆる性格と同列に並べられるもので、病気そのものではありません。
ただし、刺激に敏感であるということは、それだけストレスを抱えやすいということで、結果として精神疾患になりやすい性質であるといえます。
また、HSPは病気ではないがゆえに、医学的な研究があまり進んでいません。
そのため、関連性が明らかにされていないものも多いです。
それを踏まえた上で、各種の病気との関連性について解説していきます。
HSPと愛着障害の関係
愛着障害とは、幼少時に虐待やネグレクトを受けた結果、他人に対する安心感や信頼感を持てない障害のことです。そのため、人間不信、逆に他人への過度な依存、周りの目を気にしてビクビクするといった行動が見られます。
愛着障害はHSPの人付き合いにも大きく影響します。
両親に愛されて育ったHSPの中には、人付き合いをそれほど苦にしないタイプもいます。
しかし愛着障害のあるHSPは前述のような対人問題があるため、通常のHSPと比べてより人間関係で消耗しやすいのです。
しかも敏感なHSPは、親戚の家に一晩預けられたり、弟の方が優遇されたりといった、普通の人からすればささいな出来事から愛着障害をもってしまうこともあります。
HSPとうつ・適応障害の関係
HSPの中にはうつを患う人が多いことはよく知られています。
心のバリアが弱く、対人関係で他の人よりストレスを感じやすいHSPは、その分心の病気になりやすい性質があるといえます。
そうならないためには、まず対人関係で疲れやすい気質であることを理解した上で、耐えられる仕事・人間関係を選ぶことです。また、疲れたらすぐ休める環境を用意することも重要です。
なお、「適応障害ってなに?」という方のために補足すると、うつに似た症状です。
適応障害はストレスが原因とされ、気分の落ち込み、不安、怒りなど情緒面での症状があります。
うつとの違いは、うつはどんな場面でも気分が落ち込んだまま変わらないのに対し、適応障害はストレスの原因から離れると症状が改善されるケースが多いことです。
たとえば出社すると気分が落ち込んでしまうが、家に帰るとだいぶマシになる、といったケースです。
HSPとてんかんの関係
てんかんとは、脳の電気信号が一時的に過剰な活動を起こすことで、突然意識を失ってしまう「てんかん発作」を繰り返し起こす病気です。
ニュースなどでも、車の運転中にてんかん発作を起こして登校中の小学生を事故に巻き込んでしまったなどの痛ましい事例がありました。
てんかん患者であることがわかると車の運転をさせてもらえず、仕事が取り上げられる可能性があることから、てんかん患者であることは隠して仕事をしている人もいるようです。
なお、てんかんとHSPとの関係は明らかにされていません。
HSPと自律神経失調症の関係
自律神経失調症とは、ストレスなどが原因で、自律神経である交感神経と副交感神経のバランスが崩れて出る症状のことを指します。
交感神経は活発に活動しているときに働き、副交感神経は休んでいるときや眠っているときなどに働きます。
このバランスが崩れると、からだやこころに様々な症状が出ます。眠れない、だるい、下痢、便秘、イライラ、不安感などその症状は多岐にわたります。
HSPは外部の刺激に影響されやすく、ストレスを感じやすい体質なので、自律神経失調症になりやすい性質といえます。
日常的にストレスを受けやすい環境や、不規則な生活をしている人は、そうした生活を改善することで、自律神経失調症になりにくい環境に変えることができます。
HSPと全般的不安障害の関係
全般的不安障害とは、毎日の生活の中で漠然とした不安や心配を慢性的に持ち続ける病気です。不安や心配がずっと続くと、やがて身体にも影響を及ぼし、うつなどを併発することがあります。
外部からの刺激によるストレスをうまく処理できず、気持ちがマイナスに傾いてしまうと、本題以外のことまで不安になってしまったり、何もかもマイナスに受け止めてしまう・・・というのはHSPに限った話ではありません。
ですが、刺激に敏感で疲れやすいHSPは、より全般的不安障害になりやすい気質であるといえるでしょう。
HSPとパーソナリティ障害の関係
パーソナリティ障害とは、ものごとに対してふつうと違う受け止め方や気持ちを抱くことです。
アメリカの研究では、パーソナリティ障害は人口の15%いるとされていますが、その多くは診断がなされず、「あの人ちょっとヘン」で終わってしまいます。
しかしタイプによっては大きく気分が落ち込み、うつ病や社交不安障害を発症したり、自殺未遂や自傷行為を行うこともあります。それで治療を受けてはじめてパーソナリティ障害であることが判明するといったケースが多いです。
パーソナリティ障害は具体的には大きく以下の3パターンに分かれます。
①奇妙で風変わりなタイプ
他人への不信感を持っている人、他人への関心がない人、話が通じない人など。
②感情的で移り気なタイプ
衝動的に行動してしまう人、自己評価にこだわる人、反社会的な行動をする人、注目を浴びたい人など。
③不安で内向的なタイプ
孤独に耐えられず極度に他人に依存してしまう人、自分のルールに固執してしまう人、常に不安で神経が高ぶっている人など。
また、パーソナリティ障害は場面を選ばないのも特徴です。家では落ち着いて物事が考えられるのに、学校では緊張して不安になってしまう、などの場合は別の原因が考えられます。
ちなみに「性格が悪いこと」とは関係ありません。
HSPと似ているのはパターン③「不安で内向的なタイプ」ですが、最も大きな違いは、HSPはその人の持つ性質であるのに対し、パーソナリティ障害は障害・病気の一種であるということです。
そのため、パーソナリティ障害はカウンセリングや投薬など適切な治療によって軽快・回復させることが可能です。
HSPとADHD(注意欠如・多動性障害)の関係
ADHDとは、一言でいうと「落ち着きのない人」です。発達年齢に見合わない多動‐衝動性、そして不注意、またはその両方の症状が、7歳までに現れます。
ADHDの子供はじっとしていることができません。みんな一緒におとなしく座っているのに、一人だけじっと座っていられずに遊びはじめてしまいます。
HSPとの関連性は報告されていませんが、両方の性質を併せ持つ可能性はあります。
HSPとASD(自閉症スペクトラム障害)の関係
ASDとは、「社会で必要な3つの能力」に問題がある場合が多いといわれています。
①コミュニケーション力
②他人の心を想像する能力
③他人と関係をつくる能力
一言でまとめると「周りに合わせることができない」のが特徴です。こうした特徴は幼少期から見られ、友達が目の前で泣いていても「遊ぼうよ」と声をかけたり、自分のルールに固執してやり方を変えることに抵抗を示したりします。
なお、同じカテゴリにアスペルガー症候群や自閉症もありますが、医学的には両方ともASDの一つ下のカテゴリです。
アスペルガー症候群:ASDで、知能が正常で、言葉の発達に遅れがない
自閉症:ASDで、言葉の発達に遅れがある
HSPとASDの関係は医学的には明らかにされていませんが、刺激に敏感であることと、周りに合わせることができない性質は、矛盾するものではありません。
HSPといえば対人関係で疲れやすいというイメージがありますが、「刺激に敏感な気質」の「刺激」は、対人刺激だけを指すものではありません。光や音、またカフェインなどの化学物質に対して敏感に反応するタイプもいます。
「HSPは人の気持ちが読める」→「HSPはASDとは関係ない」は少し論理が飛躍しています。必ずしも全員が当てはまるわけではないことに注意しましょう。
HSPとHSSの関係
HSSとは"High Sensation Seeking"の略で「刺激を求める人」という意味です。これも病気や障害ではなく、HSPと同じ「気質」の一種です。
ベースジャンピング(ムササビみたいな格好で滑空するエクストリームスポーツ)をやる人なんかその典型ですね。
一見HSPとはかけ離れた気質のように思えますが、HSPなのにHSSである人もいます。
刺激に敏感だけど、刺激を求めるというのは一見矛盾しているように見えます。
好奇心が旺盛で、何にでも興味があるけど、あまりリスクは犯したくない。心のブレーキとアクセルを同時に踏んでいるような感覚ですね。
HSPとエンパスの関係
エンパスとは他人の気持ちがわかってしまう、共感力の高い人のことです。
「エンパス」という言葉は病名でもないし、学問的に名前のついているものでもありませんが、感受性(センサー)が発達しているという点で、HSPとはきわめて関連性が高い性質といえるでしょう。
HSPとギフテッドの関連性
ギフテッドとは「贈り物」を表すギフト(gift)が語源で、天からの贈り物=特別な才能を持つ人という意味です。心理学や教育学の分野で使われる用語です。
ギフテッドは並外れた頭脳を持ち、好奇心が旺盛で、物事を深く理解します。
何年も飛び級して博士号を取るような人といえばわかりやすいでしょうか。
HSPの感受性の高さは、とらえ方によっては才能ともいえるのですが、ギフテッドとは無関係です。HSPが非HSPに比べて平均IQが高いといった研究報告はまだありません。