「いちいち他人の気持ちに影響されて、心踊らされて、疲れ果てて・・・なんで自分はこんなに生きづらいんだろう。
こんな自分を変えられたらいいのに。
他人に振り回されない心を手に入れるにはどうすれば・・・?」
HSPにこんな悩みはつきもの。
自分がひとつひとつつまずいている小さなひっかかりを、他の人はひっかかりがあることすら気づかずにスタスタ歩いていってしまう。正直、羨ましいですよね。
今回は、そんなあなたに向けて、HSPを克服するための考え方について解説します。
最後まで読んでがっかりさせたくないので最初に言っておくと、ここには「敏感な気質をなくす方法」は書いていません。
敏感な気質をすっかりなくす方法を求めているのなら(あればですが・・・)、他を探すことをおすすめします。
ここに書いてあるのは、敏感な気質をよく理解して、そんな自分が幸せに生きられる方法です。
読んでいただくのは「役に立ちそうだ」と思った方だけでけっこうです。
それではどうぞ。
「克服する=なくす」ではない
「克服する」とは、その原因をなくしてしまうことだけではありません。
欠点(と思われている性質)がそのままでも、それについて思い悩まないようになれば、それは立派に「克服した」と言えるのです。
「でも、HSPで生きづらいのは事実なんだから、悩むなって言われても無理だよ・・・」
こう思うのは自然な考え方です。
でも、そうした一見当たり前な考えをしてしまう時点で、すでにあなたは不幸の罠にはまってしまっています。
僕たちはついつい「○○だから人生うまくいかない」みたいなわかりやすい原因を探してしまいます。
・自分が不幸なのは、貧乏だからだ。
・自分がモテないのは、顔がよくないからだ。
そして次に考えるのは「○○を取り除けば全部うまくいく」。
・お金持ちになったら、幸せになるに違いない。
・顔がイケメンに(orかわいく)なれば、モテるに違いない。
でも、本当にそうでしょうか?
お金持ちなのに不幸な人もいますし、顔が整っていてもモテない人もいます。
また逆に、貧乏でも幸せな人もいますし、顔がブサイク(失礼!)でもモテている人もいます。
両者は何が違うのか?
答えは「悩んでいるかどうか」です。
貧乏でも幸せな人は、お金をできるだけ使わずに生活することを楽しんでいます。
ブサイクでもモテている人は、ブサイクであることを自覚してはいますが気にしていません。
逆に「○○だからうまくいかない」と考えてしまう人は、仮にその原因が解決しても、また別の原因を求めてしまいます。
貧乏だから不幸なんだ。じゃあお金持ちになるぞ!
→お金持ちになった。けど幸せじゃない。なぜか?
→原因はステキなカノジョがいないからだ!
→ステキなカノジョができた。けど幸せじゃない。なぜか?
→自分の悩みを真に理解してくれる人がいないからだ!
・・・このように、原因論にはどこまでいっても終わりがありません。
この負のループから抜け出すためには、まず「自分を理解して、肯定する」ことが必要です。
HSPにも同じことが言えます。
HSP「だから生きづらい」と思ってしまうと、それだけで幸せになれる可能性がぐっと減ります。
では逆に、HSPは何が得意なのか? どんな環境だと生きやすいのか?
こう考えることができるようになれば、HSPを克服するという目的はもう半分達成したようなもの。
次ではその具体的な方法を解説していきます。
HSPを克服するには孫子をパクれ
結論から言うと、HSPを克服するために必要なことは一言で言い表せます。
「彼を知り己を知れば百戦危うからず」
頭に「?」マークが浮かんだ人のために、もうちょっとかみ砕いて言うと「戦う相手と自分のことをよく知っていれば戦争は負けなしだよ」って意味です。
このフレーズ、聞いたことがある人も多いはず。
これは古代中国の軍略家、孫子の言葉ですが、戦略の考え方は競争一般に通じるということで、現代ではスポーツやビジネスにも使われていますね。
ここまで読んで、
「なぁんだ、それぐらい知ってるよ」
って思ったのなら、野暮な解説、失礼しました。
そこで、改めて聞きます。
「本当にこの言葉の意味、わかってますか?」
なせこんなことを聞くのかというと、本当にわかっているのなら、HSPはとっくに克服できているはずだからです。
本当に己のことを知っていますか?
本当に敵のことを知っていますか?
この両方の問いに自信を持ってイエスと即答できるのなら、これ以上読む必要はありません。
でも、そうでないなら、続きをどうぞ。
己を知る
「HSPを克服する」だとか「改善する」などと思ってしまうと、ついつい物怖じしない性格に変われる魔法の特効薬を探してしまいがち。
でも、この考え方、間違いです。
なぜなら、残念ながらそんな都合のいい特効薬はどこにもないからです。
持って生まれた脳の癖
敏感な気質は、元をたどれば脳に行き着きます。
外から何か刺激を受けたとき、あなたがどう反応するかは、脳内で分泌されるホルモンの種類と量によって決まります。
たとえば上司に怒鳴られたとしましょう。
このとき、脳内ではノルアドレナリンというホルモンが分泌されています。
ノルアドレナリンは「闘争と逃走のホルモン」ともいわれ、危険を脱出するために血圧を上げ、俊敏に動くための準備を整える役割を持っています。
怒られて大きなストレスを感じる人は、このノルアドレナリンの分泌が多く、逆に怒られてもへっちゃらな人は、ノルアドレナリンがそんなに分泌されていません。
もっと正確にいうと、ノルアドレナリンの分泌が多いから大きなストレスを感じ、ノルアドレナリンの分泌が少ないとそれほどストレスを感じません。
このように「気持ち」や「気分」の正体はホルモンです。
そして人間は一人ひとり違います。同じボタンを押しても、分泌されるホルモンの種類や量は一人ひとり異なるのです。
何回も同じ刺激を受けているとだんだん慣れてくるので、ホルモンが分泌される量が少なくなる、ということはあります。
でも、これも脳によります。
怒られるのに早々と慣れてしまう人もいれば、いつまでたっても慣れない人もいます。
刺激を受けたときにどのホルモンをどれくらい分泌させるかというのは、持って生まれた脳の癖のようなもの。
ご存知のとおり、脳を変質させることはなかなかできませんし、まして取り替えなどききません。
根性や努力の問題ではなく、持って生まれたスペックの問題なのです。
己を知ること=自分のスペックを知ること
真に克服するために必要な第一ステップは、己を知ること。
己を知るとは、自分の性質をプラスもマイナスもなく、フラットに理解することです。
要はスペックの理解ですね。
ここで注意しなければいけないのは、「自分は○○が劣っている」というのはスペックではないということです。
わかりやすくするために、PCのスペックを思い浮かべてください。
メモリが8ギガだとか、USBスロットが4つだとか、たくさん数字が並んでますよね。
でも、「メモリは多い方です」とか「USBスロットの数は最近のPCにしては少ない方です」とは書いてません。
スペックとはこういうことです。
要は、
×「自分は○○がダメだ」
○「自分は○○という性質を持っている」
と考えることです。
でもこれって意識しないとなかなか難しくて、自分に自信がないとついつい、
「自分にはいいところなんて一つもない」
・・・なんて考えてしまいますよね。
苦手なことばかり目についてしまって、あれもできない、これもできない、自分は価値のない人間だ、いったいなんのために生きているんだろう、なんて思考がいつまでもグルグル回っている。
僕もそうだったからよくわかります。
でも、それこそがマイナス思考の罠。
なんでもそうですが、スペックには、本来マイナスもプラスもありません。
でも、人はそれを勝手にプラスやマイナスに色付けします。これが評価です。
評価のことは後述するとして、まずは持って生まれたスペックを理解することです。
「敏感だから生きづらい」という言い方は、すでに評価になってしまっています。
そうではなく、「敏感というのは具体的にどういうことなのか」を掘り下げていきます。
・他人の感情に影響されやすい
・音に敏感
こういった性質を、いいも悪いもなくフラットに挙げていきます(書き出すとより効果的です)
こうしてできた一覧が、あなたのスペックです。
向いていることに目を向けよう
HSPとして生まれついたのに、刺激にビクともしない性格を求めてしまう。
気持ちは痛いほどよくわかりますが、これはまるでペンギンが空を見上げてカモメに憧れるようなもの。
どうがんばったってペンギンは自力で空を飛べません。
でもその代わり、水中では他のどんな鳥にも負けないぐらいすばやく動いて魚を捕まえることができます。
こんな鳥はペンギンだけです。
なのに、誰よりも上手に泳げるという事実を自覚しないまま、空を飛ぶ方法ばかり探してしまう。
でも、このペンギンに必要なのは、空を飛ぶ方法ではなく、自分の得意分野は海の中なんだという気づきです。
泳ぐのが得意なんだという自覚が芽生えれば、カモメと自分を見比べて変な劣等感に苛まれることもないし、海の中でのびのび楽しく生きられます。
これと同じことが人間にも言えます。
HSPの高度に発達した感受性は、場所を選べばオンリーワンの武器になります。
でも、HSPが欠点にしか見えない人は、空に憧れるペンギンと同じように、HSPを自分の中からなくすことを考えてしまいます。
ここで孫子の言葉に戻ります。
『彼を知り、己を知れば、百戦危うからず』
まずは己を知ること。
次に彼(環境)を知ること。
この2つさえできていれば、もう悩むことはありません。
先ほどのペンギンなら、
「僕の羽は飛ぶんじゃなくて泳ぐためにあるんだ。そして僕は海の中でなら活躍できるんだ」
と思えるようになります。
持って生まれたものに抗うのではなく、それを知って、活かすことです。
あなたに必要なのは、いつまでも効果の出ない対処療法ではなく、自分と周りの環境をきちんと知ることです。
彼を知る
自分のスペックをきちんと理解したら、次はそんな自分が合う場所を探します。
ペンギンの例でいうと、空ばかり探すのではなく、自分の強みが活かせる水辺を探すのです。
もしかしたら、そんな場所は近くにないかもしれません。そのときは、別の場所を探すのです。
気持ちよく過ごせる場所が限られているからこそ、場所選びには妥協してはいけません。
必要なのは相性の悪いことから逃げる勇気です。
スペックは変えられないが評価は変えられる
多くの人はスペックと評価を一緒にしてしまいます。
先ほどのPCの例でいうと、
スペック
・メモリは8GB
・USBスロットは4つ
評価
・動作が速い
・USBがあんまり差せない
といったところですが、多くの人は評価ばかり気にして、スペックを見つめることを忘れています。
でも、覚えておいてください。
スペックはなかなか変えられませんが、評価は変えられるんです。
評価を変える方法は簡単。場所を変えることです。
動作が速くてUSBスロットが少ないPCは、たくさんUSBを同時に接続しないといけないところだと「使いづらいなあ」と思われてしまいます。
でも、USBをたくさん接続しなくていい場所に置かれれば「動作が軽快でよく動くなあ」と高評価になります。
このように、同じ性質でも高く評価される、過ごしやすい場所を選ぶというのは、HSPにとってはめちゃくちゃ重要です。
変えるべきは自分ではなく環境です。
自分を環境に合わせようとするのではなく、環境を自分に合わせましょう。
合わない人には嫌われてもいい
ただでさえ対人関係で消耗しやすいHSPは、プライベートでストレスなく付き合える人は限られています。
気分にムラがある人や、強引に事を進めてしまうような人とは、なるべく距離を取りましょう。一緒にいても疲れるだけです。
「そんなこと言われても、これまでの付き合いだってあるわけだし、急には無理だよ」
もしこんなことを考えたのなら、その気持ちは自然です。
誘いを断ってしまうことで、まがりなりにも築いてきた友人関係を台無しにしたくない。
でも考えてみてください。
その友人は、あなたのことをちゃんと考えてくれているのでしょうか?
「自分はHSPなんだ。人が大勢いる場所はすぐ疲れちゃうからあんまり好きじゃないんだ」
ここまでストレートに言わなくても、ふつうに仲のいい友人なら、なんとなく感じ取れるはずです。
こいつは人が大勢いる場所は好きじゃないな・・・。
無理して明るく対応してるけど、実は疲れてるな・・・。
本当の友人なら、あなたの様子を察した上で、付き合い方を配慮してくれるものです。
僕の友人にも、距離感の掴み方が抜群にうまい人がいます。
人と仲良くなるのが得意で、よく年上にもこちらがヒヤリとするほど失礼な口を利いたりするのですが、怒られるどころか逆に可愛がられているのです。
観察していると、単にキャラで許されているのではなく、人によって対応を変えていることがわかります。
この人はここまで言っても気分を害さない、というボーダーラインの見極めが正確にできているということ。
失礼なように見えて、裏では気を遣っているのです。
親しき中にも礼儀ありということわざが示すように、相手への礼節をわきまえているからこそ良い友人関係が築けるのです。
逆に、自分が楽しければOK。相手が不快になろうがお構いなし。都合のいいときだけ振り回して、気が済んだらハイ帰っていいよ。
・・・そんな一方的な付き合いは、はたして本当の友人関係と言えるでしょうか?
あなたの人生はその人のためにあるのではありません。
あなたの人生は、あなただけのものです。
友人もそう。
あなたが、あなたの基準で友人を選ぶのです。
相手があなたを選ぶかどうかは、相手の問題です。
くれぐれも望まない友達付き合いに足を引っ張られないようにしてください。
行きたくない誘いには、勇気を出して断ってみましょう。
それで縁が切れてしまうようなら、それまでの仲だったということ。むしろ別れて正解です。
本当の友人なら、一回断ったぐらいで縁が切れたりしません。
もう一度言います。
合わない人には、嫌われてもいいんです。
合わない家は引っ越していい
敏感な人には、そうでない人なら気にならないようなわずかな刺激でも拾ってしまいます。
・夜中になると隣の人のイビキが聞こえてくる
・隣の人のギターの練習が気になる
・隣の人がよく作る料理の匂いが苦手
・ご近所どうしでよくケンカしている
など、心休まらない原因がはっきりしているのだとしたら、それに慣れようとするのではなく、原因を取り除くことを考えましょう。
場合によっては引っ越すのも立派な選択肢です。
くれぐれも我慢するという発想はNGです。
仕事で消耗して、友人関係でも消耗して・・・ただでさえ消耗しやすいのに、もっとも安全で安心な場所であるはずの自宅でも心休まらないのだとしたら、いったいどこに逃げ込めばいいのでしょう。
自宅はあなたの心の最後の砦です。
安全と安心はしっかりと確保できるようにしましょう。
合わない職場からは逃げていい
HSPがストレスを感じずにのびのび働ける職場は限られています。
今の仕事に苦痛を感じているのなら、心の悲鳴を無視して働き続けるのはNG。
我慢を続けた結果、うつになってしまっては元も子もありませんよね。
こんなときは、ストレスの少ない部署への異動を願い出るか、思い切って転職するのも手です。
HSPの疲れやすい性質は、努力や根性では解決しません。
HSPはもともと客対応の多い窓口や営業は不向きだし、雰囲気がピリピリしている職場もすぐ疲れてしまって向きません。
少人数の落ち着いた雰囲気のオフィスか、できればあまり人に干渉されない仕事のほうが力を発揮できるでしょう。
ここは重要なので何度でも言いますが、HSPに必要なのは、そうした自分の性質をきちんと理解して、そんな自分が働き続けられる働き方を理解して、そんな自分にフィットする職場を選ぶことです。
でも、周囲がHSPを理解してくれるとは限りません。
「努力が足りない」
「怠けてるだけ」
「甘えてるだけ」
上司や同僚からこんな言葉が飛び出てくるようなら赤信号。
これはペンギンに空を飛べと言っているのと同じで、あなたのことを理解していない&理解しようともしていない証拠です。
そんな言葉を真に受けて、
「辛いのは甘えてるだけなんだ。自分はもっとがんばらないといけないんだ」
なんて思ってしまったら、それこそうつ一直線です。
HSPは根性がないわけでもサボっているわけでもありません。
そもそものスペックが違うのだから、同じパフォーマンスを期待するのがおかしいのです。
ペンギンには空を飛べと命令するのではなく、海で魚を獲ってこいと命令するのが正しいマネジメントです。
でも、理解のない上司にそれは期待できません。
そんなときに頼れるのは自分だけ。
自分に合った働き方を心得ていれば、自分に合った職種が何なのかわかってくるはずです。
・一人で静かに休める場所がある仕事
・人となるべく接しない仕事
などなど。
あなたはどんな条件ならあまりストレスを感じずに働けますか?
HSPで悩まない生活をしたいのなら、ここは避けて通れない話題です。
ひとつ、じっくり考えてみてください。
さいごに 選ぶことは誰にでもできる
世の中には思いどおりにならないことがたくさん。
自分を変えることも、周りの人たちを変えようとすることも、すぐにはできません。
でも、自分のスペックができるだけマイナスにならない(そしてできればプラスに活かせるような)環境を目指すのは、すぐにでもできます。
大切なのは、選ぶこと。
心地よい友人関係、心地よい住まい、心地よい仕事、心地よいライフスタイル・・・ぜんぶ自分で選べます。
あなたはどんな友人が心地よいですか?
どんな住まいが心地よいですか?
はたまた、どんな仕事が心地よいですか?
目を向けないようにしていたかもしれませんが、あなたのことは誰よりもあなた自身がよく知っているはず。
自分に素直になって考えれば、劣等感や克服論の影に隠れて見えていなかったものが、少しずつ見えてくるはずです。
踏み出しましょう。
心地よい人生に向かって。